第14回学術集会 抄録
【教育講演】
サルモデルを用いた脳機能回復メカニズムの解明
−分子から行動までの統合的理解に向けて−」
肥後 範行先生(産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門 研究員)
【一般演題T 基礎研究】
1 NIRSによるRey’s
Auditory Verbal Learning Testの即時再生時における脳活動計測
武田 湖太郎 (国際医療福祉大学病院 神経内科,科学技術振興機構
CREST)
2 手工芸活動の教示方法の違いにおける脳賦活の様相の違い
−近赤外分光法(NIRS)による検討−
藤岡 崇 (鹿沼病院 リハビリテーション課)
3 股関節の肢位変化が下肢遠位筋を支配する脊髄運動ニューロンの興奮性に与える影響について
成田 知弘 (広島大学大学院 総合科学研究科)
4 視覚で触覚が誘発される −ミラーボックスの研究とfMRIエビデンス−
高杉 潤 (千葉県医療技術大学校 理学療法学科)
【一般演題U 症例研究】
5 ミラーセラピー後,非麻痺肢の触刺激に誘発されて麻痺肢に不随意運動が出現した脳卒中感覚脱失例
−健常者fMRIエビデンスによる神経学的背景の考察−
沼田 憲治 (茨城県立医療大学 理学療法学科)
6 視床上外側部の白質に生じた出血後にthalamic
astasiaを呈した1例
阿部 浩明 (広南病院 リハビリテーション科)
7 左前頭葉内側出血により視覚性反響言語を呈した1例
岩本 智佳 (太田総合病院 整形外科リハビリテーション室)
サルモデルを用いた脳機能回復メカニズムの解明
−分子から行動までの統合的理解に向けて−」
産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門 研究員 肥後 範行
脳卒中などにより脳に損傷を受け、神経細胞が死滅すると、その細胞は再生しない。それにもかかわらず、脳卒中患者は失われた機能に回復を示すことがある。脳機能回復が生じるメカニズムを明らかにすることで、より有効な機能回復法の開発に繋がると考えられる。モデル動物を用いた研究には、(1)損傷領域の位置と大きさを厳密に設定できること、(2)損傷後の状態(訓練の有無など)を変えた場合の効果を検証できること、(3)解剖学や分子生物学などの侵襲的手法を用いてメカニズムに迫ることができること、など大きなメリットがある。私たちは人に近い体格と脳の機能を持ったサルをモデル動物として、脳機能回復メカニズムに関する研究を行っている。
第一次運動野は脊髄への主要な出力を担う脳領域であり、精密把握(つまみ動作)を含む手の巧緻動作に重要な役割を果たす。この領野に実験的脳損傷を作成したところ、損傷直後から反対側の手に麻痺が生じた。損傷後の訓練が機能回復におよぼす効果を検証するために、把握運動訓練を毎日1時間、週5日行うグループ(訓練群)と、運動訓練を行わないグループ(非訓練群)の間で、手指の運動機能の回復を比較した。その結果、訓練群では、損傷後数週間の運動訓練期間を経て、手指の動きが見られるようになった。ただし、この時期には指の分離した動きが未熟であるため、人差し指の屈曲にともない親指の屈曲が生じ、精密把握を行うことは不可能であった。その代わり、人差し指の先端と親指の背側面で把持する代償的な把握が多く見られた。その後、さらに数週間の運動訓練を行ったのち、損傷前と同じ精密把握が見られるようになった。非訓練群でも手指の動きが見られるようになったが、指の分離運動は不十分であり、人差し指の先端と親指の背側面で把持する代償的な把握が多く見られた。非訓練群では代償的な把握が固定し、損傷後数ヶ月経過しても精密把握はほとんど見られなかった。以上の実験結果から、第一次運動野損傷後に積極的な把握運動訓練を行うことで、精密把握の回復が促進されることが示された。
精密把握が回復した背景として、失われた第一次運動野の機能を代償するような神経回路変化が、損傷されずに残された脳領域において生じたことが考えられる。最近、私たちは脳損傷後の回復過程において生じる神経回路変化を明らかにするために、脳活動イメージングや遺伝子発現解析の手法を用いた研究を行っている。これらの手法を用いた最近の研究結果から、第一次運動野の前方にある運動前野という領域において、機能的代償が生じている可能性を示す結果を得ている。すなわち、この領域で生じる機能的代償を促進することが、運動機能回復のための鍵となると考えられる。本講演では、私たちの研究のほかに、脳機能回復メカニズムに関する最近のトピックスを概説する予定である。
1 NIRSによるRey’s Auditory Verbal Learning Testの即時再生時における脳活動計測
○ 武田 湖太郎1,2,宮崎朋美3,平野大輔4,5 加藤宏之1,2,橋本律夫1,2
NIRS(near-infrared spectroscopy)は近年急速に利用が進んでいる非侵襲脳機能計測法であり,その非拘束性の高さから他の脳機能計測法に対して比較的自然な姿勢で計測することが可能とされ,臨床場面における脳活動計測が期待されている.本研究ではNIRSを用い,言語性記憶検査の課題として臨床場面で用いられているRey’s Auditory Verbal Learning Test (RAVLT)の課題中脳活動を評価した.対象は右手利き健常成人6名であった.RAVLTは標的15単語を呈示された後,記憶した単語を再生する課題であるが,アーチファクト混入防止のため顎台にて頭部を固定した状態で,座位・机上筆記により課題を行った.計測領域は,前頭葉から側頭葉および後頭葉を計測領域としてカバーするため,左右両側にそれぞれ,8本の近赤外光照射Probeと8本の検出Probeを横2列に配置した(片側15チャネル,計測チャネル間距離1.25 p).標的15単語の20秒間口頭呈示−筆記再生60秒間−安静30秒を1ブロックとして,同単語を用いて5ブロック(T1-T5)の即時再生を行い,課題遂行中の酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)の濃度変化を安静時(課題前10秒間)と比較した.Broca領域(右側ではBroca相当領域)から側頭葉を含む広範囲で課題依存的な一過性のOxy-Hb濃度増加とDeoxy-Hb濃度減少が計測された.T1-T5の正答単語数において学習効果が得られるに従い,Oxy-Hb,Deoxy-Hb濃度変化の振幅は徐々に減少した.この結果は,学習効果が得られる事による脳内の記銘・再生方策の変化や,神経活動のEffortlessなどを反映した結果であると考えられた.また,RAVLTは言語性記憶課題とされるが,RAVLT即時再生時には左側の言語関連領域だけではなく,右側の前頭葉・側頭葉が賦活すると考えられた.
1 国際医療福祉大学病院 神経内科 2 科学技術振興機構 CREST
3 国際医療福祉大学病院 リハビリテーション室 4 国際医療福祉大学 大学院 医療福祉学研究科
5 国際医療福祉リハビリテーションセンター なす療育園
2 手工芸活動の教示方法の違いにおける脳賦活の様相の違い −近赤外分光法(NIRS)による検討−
○藤岡 崇1,2,谷口敬道2,3,平野大輔2,4,武田湖太郎5,6,杉原素子2,3
精神科作業療法では,手工芸活動を作業療法の手段として多く用いている.本研究では,手工芸活動の教示方法の違いにおける脳賦活の様相の違いを知ることを目的に,近赤外分光法(Near-infrared spectroscopy; NIRS)による脳機能計測を行った.健常成人8名を対象に,計測課題は麻紐編みの作り方の思考時とし,試行錯誤課題と手ほどき課題の2条件での比較を行った.前者は被験者に完成した麻紐編みの作品を見本として提示した時であり,後者は前者の条件に加え作り方の手順を口頭で説明した.NIRS計測は光トポグラフィ装置ETG-4000(日立メディコ)を用い,近赤外光照射プローブと検出プローブを国際10-20法のFp1とFp2を覆うように3 cm間隔で格子状に前頭部に配置し,13チャンネルの同時計測を行った.各々の条件において安静時27秒‐思考時15秒の3回繰り返しと安静時27秒‐実施時30秒を1施行とし,5施行繰り返した.安静時は点滅光の注視とし,思考時は見本の麻紐編みの作り方を考え,実施時は見本と同じものを作ることとした.試行錯誤課題では被験者全員が見本と同じものは作れず,手ほどき課題では見本通りに作れた.各課題の思考時に有意な酸素化ヘモグロビン濃度値の増加が認められたチャンネルを賦活したチャンネルとし,各課題における賦活したチャンネル数を比較した.手ほどき課題時は,試行錯誤課題に比べて賦活したチャンネル数が有意に多く,広範囲な脳賦活を認めた.以上より,手工芸活動の教示方法の違いは,前頭葉の脳賦活に違いをもたらし,対象者の症状に合わせた教示方法の検討の必要性が示唆された.
1 鹿沼病院 リハビリテーション課 2 国際医療福祉大学 大学院 医療福祉学研究科
3 国際医療福祉大学 保健医療学部 作業療法学科 4 国際医療福祉リハビリテーションセンター なす療育園
5 国際医療福祉大学病院 神経内科 6 科学技術振興機構 CREST
3 股関節の肢位変化が下肢遠位筋を支配する脊髄運動ニューロンの興奮性に与える影響について
○成田知弘1,船瀬広三1,梁 楠2,笠井達哉3
【目的】股関節の肢位変化と,ヒラメ筋(SOL)H反射との関係は,主に歩行との関連で研究されている.しかし股関節は球関節であり,屈曲・伸展以外の運動も可能である.本研究では,股関節の回旋方向の肢位変化が,SOLの脊髄運動ニューロン(MN)の興奮性に及ぼす影響について調べることを目的とする.
【対象と方法】健常成人8名(22 ± 2.8歳)を対象とした.被験者は安静臥位をとり,右下肢を膝関節屈曲60°,足関節底屈10°に下肢装具を用いて固定した.股関節の内外旋中間位(中間位),外転・外旋した肢位(外旋位+,外旋位++),内転・内旋した肢位(内旋位+,内旋位++)の肢位でSOL H反射を誘発し,最大M波に対する最大H反射の比(Hmax/Mmax)を比較した.併せて股関節周囲筋からのTa入力を増大させる目的で100Hzの振動刺激を行いSOL H反射への影響を比較した.また,シナプス前抑制の関与を調べる目的で,総腓骨神経を条件刺激しSOL H反射の抑制量(D1抑制)を比較した.
【結果】中間位に比較して,内旋位+,外旋位+ともHmax/Mmax は低下した.さらに,股関節筋に他動的な伸張を加える++条件では低下がより顕著となった.D1抑制,振動刺激ともSOL H反射を抑制したが,D1抑制では,++条件でより抑制効果が強められる傾向が認められた.
【考察】股関節を回旋することで,末梢のSOLを支配するMNの興奮性を抑制することが示された.股関節周囲筋群からの筋感覚入力増大に伴うSOL MNへのシナプス前抑制の関与が示唆された.この結果は,痙性のコントロールに応用できるものと考えられる.
1 広島大学大学院総合科学研究科 2 広島大学大学院保健学研究科
3 広島大学大学院国際協力研究科
4 視覚で触覚が誘発される −ミラーボックスの研究とfMRIエビデンス−
○高杉 潤1,2,沼田憲治3,村山尊司2,4,松澤大輔2,中澤 健2, 清水栄司2,門間正彦3,長島一啓1,濱田裕幸1
ミラーボックス(以下MB)を用いて,切断例やCRPS例が健側肢の触刺激を観察しているとき,鏡に隠れた他方の罹患側肢にも体性感覚(一種のsynaesthesia;共感覚)が誘発されることがいくつか報告されている.しかしこの現象は健常人で起こるのか明らかでなく,神経生理学的機序も明らかではない.本研究は健常人のMBにおける視覚-触覚の共感覚について,その有無と脳活動領域を明らかにすることを目的とする.
【MB実験】対象は右利き健常者21名.課題は2条件(条件@:MBに両手を入れ,触刺激される自身の鏡像手の観察,条件A:鏡像手を他人の手に入れ替えてその触刺激の観察)を実施し,鏡の背後の手に生じた感覚の程度をvisual analog scale(VAS)にて記録した.結果,19名で両条件のいずれか,もしくはいずれとも鏡の背後の手に知覚が生じ,条件Aで有意に高いVASを示した.
【fMRI実験】仮想のMBを設置し,右利き被験者15名を対象にfMRIにてブロックデザインで撮像した.被験者は右母指を触刺激され,その(左母指が刺激を受けているように見える)鏡像を観察するセッションAと鏡を隠した状態で右母指に触刺激を与えられるコントロールのセッションBを実施した.結果, 15名のグループ解析ではセッションBは右SI領域の活動は示されなかったが,Aとの差分では,右STに賦活が示された.さらに左手に触覚が明らかに誘発された群とそうでない群との脳活動の相違は,前者で左右SIIに強い賦活が示されたのに対して,後者は弱いSIIの賦活が示された.
【考察】MBを用いた触刺激の観察によって健常人でも触覚の誘発(視覚-触覚の共感覚)が高い割合で起こることが示唆された.この責任脳領域は両側SIIの強い賦活化とSTの極めて弱い活性化が関与すると推察される.
1 千葉県医療技術大学校 理学療法学科 2 千葉大学大学院 医学研究院 神経情報統合生理学
3 茨城県立医療大学 4 千葉リハビリテーションセンター 成人理学療法科
【一般演題U 症例研究】
5 ミラーセラピー後,非麻痺肢の触刺激に誘発されて麻痺肢に不随意運動が出現した脳卒中感覚脱失例
−健常者fMRIエビデンスによる神経学的背景の考察−
○沼田憲治1,可児佑子2,高杉 潤3,村山尊司4,大賀 優4
【はじめに】
視床出血後の感覚脱失例に対するミラーセラピー施行直後,非麻痺肢の皮膚刺激に誘発されて麻痺肢の不随意運動が出現した.健常者の鏡像観察時のfMRI解析結果をもとに本現象の神経学的背景を検討する.
【症例】
MRI(T2):右視床にHDAを認めた.コミュニケーション良好,高次脳機能障害なし.左上下肢失調様運動,Brunnstrom stageY,筋緊張軽度亢進,DTR亢進.左半身全感覚脱失,左上肢・顔面dysesthesia.ADL:意識的に視覚代償による左手の使用はできるが,運動は拙劣で日常使用なし.座位安定,歩行は介助レベル.
【ミラーセラピー条件】
座位姿勢の正中矢状面に鏡を置き,鏡に映った右手の運動観察と触刺激観察(指,鍵,タオル)を約15分間施行した.同介入は4日間の休止期をはさみ2回実施した.
【結果】
初回介入:illusionの出現を訴える.介入後,開,閉眼いずれの場合でも非麻痺側の皮膚刺激で麻痺肢の指・肩などに不定形な不随意運動が誘発された.2回目介入:セラピーに集中せず。illusion出現の訴えはなく,終了後も皮膚刺激による不随意運動の出現はなかった.
【fMRI撮像と結果】
被験者は健常学生16名.EPI撮像時の課題は腹部上の鏡に映った右手触刺激の観察課題(mirror),及び鏡像を遮断し触刺激のみ与えた課題(masked)とした.データ解析はSPM2を用いた.mirrorとmasked課題との引き算画像で右1次運動感覚野(SM1) に弱い賦活を認めた.
【考察】
鏡像観察による運動illusionの出現率は健常者よりも身体イメージの低下した脳卒中患者で高いことや,腕神経叢損傷による感覚障害患者では手の運動時に同側SM1に高い賦活が生じるなどの報告がある.本例の不随意運動は,鏡像観察によって同側SM1の賦活亢進があり,反対側のS1から交連線維を経由した刺激情報によって誘発されたことが推察される.
1 茨城県立医療大学 2 茨城県立医療大学付属病院
3 千葉県医療技術大学校 4 千葉リハビリテーションセンター
6 視床上外側部の白質に生じた出血後にthalamic
astasiaを呈した1例
○阿部浩明1,2,近藤健男2,藤原悟1,出江紳一2
視床および視床上外側部の白質に生じた病変により立位坐位保持障害を呈し自然軽快する稀な症候としてthalamic astasiaが報告されている(Masudue & Gorelick., 1988).我々は視床上外側部の白質に生じた出血後に,片麻痺が軽く表在・深部覚障害がないにもかかわらず著しい立位保持障害を呈しその約一ヶ月後に歩行自立に至ったthalamic astasiaと思われる症例を経験したので経過と脳画像所見について報告する.
症例は78歳男性.水泳後,立てなくなり救急搬送される.来院時JCS:0,軽い右片麻痺と構音障害がありCTにて左視床出血が確認された.第3病日に初回介入した.感覚障害がなく,右上下肢の失調と麻痺が極軽度みられた.下肢の支持性は十分だが起立・立位保持できずバランス介助を要し,麻痺側もしくは後方へ傾斜した.第13病日に上肢支持なく起立可能となり動揺はあるが1分程立位保持可能となった.第17病日に歩行器を使用して45m以上,両側でT字杖を使用し15m歩行可能となった.翌日リハ病院へ転院し約2週間後に歩行が自立して退院した.第17病日に撮像したMRIでは視床上部白質に病変がみられ,翌日のSPECTにおいて損傷側の前頭・頭頂葉,側頭・後頭葉と対側小脳に軽度の脳血流量低下がみられた.本症例は四肢の運動失調は軽度で立位保持が著しく困難となった.
対側小脳の血流量低下はcrossed cerebellar diaschisis (CCD)(Engelborghs et al., 2000)と思われるがCCDは歯状核赤核視床路の断裂により生じると考えられている.その症状は四肢の協調運動障害であり姿勢保持を著しく困難とするものではない.このことから,視床腹外側核後側へ前庭小脳からの求心性入力があり,視床を介し大脳皮質に投射されるが,その線維に断裂が生じたため同側の大脳皮質のdiaschisisが生じthalamic astasiaが出現したと推察した.
1 財団法人広南会 広南病院 リハビリテーション科2 東北大学大学院 医学系研究科 肢体不自由学分野
7 左前頭葉内側出血により視覚性反響言語を呈した
○ 岩本智佳,富永潮也
【はじめに】
視覚性反響言語は,通常,理解を伴わない過剰な音読である.本邦でも数例報告があるが脳内出血例は少ない.今回,左前頭葉内側出血の障害で視覚性反響言語を呈した成人症例を経験したので報告する.
【症例]】
54歳女性,右利き.発症時,右片麻痺と運動性失語症状を呈していた.発症当日,当院に搬送入院し保存的加療となる.入院時GCS=E4VaM6であった.MRIにて左前頭葉内側,左帯状回前方に脳内出血を認めた.血腫周囲の浮腫が補足運動野(以下SMA)と錐体路に及んでいた.
【経過】
3病日目よりST開始.4病日目から短文の理解が可能.5病日目には質問に対し緩慢ではあるが,書字や50音表の指差しによる表出が可能であり,語想起や音韻意識が保たれていると示唆された.13病日目まで緘黙状態であったが,徐々に小声での発話が可能となる.18病日目から聴覚性・視覚性反響言語,補完現象が認められた.その際,患者自身が文字刺激を隠すなどの行動を認めた.また,隠れている文字を補って音読することから,意味理解を伴った音読であると示唆された.症状は,転院となる40病日目にはほぼ消失した.標準失語症検査(9~16病日目施行)は多くの課題が非失語レベルであった.しかし,呼称課題に対して語流暢課題の著しい低下,表出課題時の緩慢さと努力性を認めた.
【考察】
SMAは,記憶依存性の運動や,運動の順序制御などに関わっているとされる.また左SMAは葛藤条件処理に深く関わるとの報告もある.本症例の場合,自発的な語想起や発話に困窮した際に視覚入力された文字を音読する行為を抑制できず,視覚性反響言語が出現したと考えられた.